郷土料理はその地域に根付いた農山漁村の産物を上手に活用して、風土に合った食べ物として作られ、食べられてきました。
みなさんの地域にもきっとご自慢の郷土料理があることでしょう。
日本人のソウルフードである、数多くの郷土料理がある中で、今回栃木県の『しもつかれ』についてご紹介したいと思います。
しもつかれとはどんな料理…??
とても変わったネーミングの『しもつかれ』。
栃木県を中心に今でもよく食べられている伝統的な郷土料理で、ずっと食べ継がれてきました。
見た目は素朴ながらも、しみじみとした味わいで、郷土料理らしい一品です。
基本的な材料
・お正月に残った塩鮭の頭
・節分の豆まきに使った大豆
・大根
・にんじん
・油揚げ
・酒粕
これらが主な材料です。
大鍋の中にたーーっぷりと入れて調理する、煮込み料理です。
少々地味ですが、ヘルシーで体にいいものばかりですね!
料理の由来
稲荷神社に供える行事食
2月の初午(はつうま)、節分のあとの最初の午(うま)の日に神様に捧げる料理です。
江戸時代の天明の飢饉(1781~1789)のころに稲荷神社にお供えしたのが始まりと伝えられています。
稲荷神社のお祭りである初午とはいえ、2月ごろは食料が乏しい季節です。
冷蔵庫もなければ、野菜の栽培方法もまだまだ未発達な時代でしたから、生きのいいごちそうを作るのは困難でした。
そこで考え出されたのが、こちらの残り物
・塩鮭の残りの頭
・炒り豆は節分の豆まきの残り物
・酒粕は酒を絞った残り物
・晩秋に収穫し、冬の間食べ続けて残った大根
これらを巧みに利用して作ったものが“しもつかれ”なんですね。
確かに食材の組み合わせが不思議な料理ですが、食べ物を無駄にしないで食べつくす、昔の人の知恵があふれた料理ではないでしょうか。
こうして行事食として伝えられてきたしもつかれは、稲荷神社にお供えし、五穀豊穣や家中の無病息災を願います。
“藁づと(わらづと)”と言われるわらで束ねた筒の中に、しもつかれとお赤飯をそれぞれ入れてお供えします。
しかも7軒のしもつかれを食べると風邪を引かない、という言い伝えもあり、一部の地域では重箱に入れて隣近所とやりとりする風習が残っているんですよ。
名前の由来
面白いネーミングのしもつかれですが、名前の由来は諸説あります。
・鎌倉時代前期の説和集『宇治拾遺物語』が語源という説
・大豆の表面のしわが赤ん坊のむずかる顔に似ているから/しもつかれに酢をいれることもあり、子供たちが酢でむずかるから「すむつかり(酢憤)」
・下野の国(栃木県)の祝い料理の下野嘉例(しもつかれい)がなまった
・味がしみ込んだ料理、つまり「しみつかる」
などなどいろいろな言葉が転じていったようです。
しもつかれの味は?評判は…?
「どろっとしていて、見た目がちょっとね…」
「子供のころはあまりすきじゃなかったな…」
なんて声がよく聞かれ、残念ながら好き嫌いが分かれてしまうんですね~。
ビジュアルも香りも独特なため、苦手な人も多いようです。
もちろんご飯のおかずとしても食べられます。他の料理の何にも似ていない風味で、少し香ばしい香りがしてさっぱりとした味。脂っぽいものを好まない人なら、はまりそうな味わいです。
冷蔵庫でよく冷やして食べると、独特な風味が少し薄らぎ、あまり抵抗なく食べられます。
実は…お酒の肴に最高!一杯ほしくなる味なんですよ~。
しもつかれコンテストがある!!
毎年2月になると、栃木県日光市で『全日本しもつかれコンテスト』が開催されます。
選ばれた30名が自慢のしもつかれを持って集合し、来場者全員によって投票され、その年の鉄人を決める毎年恒例のイベントです。
それほど人気はないのでは?と思いながらも、一度足を運んでみました。
ところが!!
長蛇の列をなして、会場は人であふれんばかり!
大盛況の中、外まで行列は続いていました。地元の人々は、みんなこのイベントを楽しみにしているのです。
初午です。お稲荷さんにしもつかれを御供えする人もいる。
写真は頂いたしもつかれ、凄く旨い。
日光市今市の全日本しもつかれコンテストについて、老婆心ながら。
最初はしもつかれにスプーンが立つが、少なくなると立たせて置けない。スプーン置きが必要。容器ごとにスプーンは二本欲しい。 pic.twitter.com/d63CRvKPuL— ボケボウシ (@c14t11v0) 2017年2月12日
家庭によって、味はさまざま
私の母も毎年作るので、小さいころから食べて慣れ親しんできた味ですが、他の方のしもつかれを食べてビックリでした。
「家庭によって味わいがかなり違う!」
いろいろ味見をしたところ、しょっぱめ、甘め、汁気の多い人、少ない人、具材にごぼうやしいたけ、高野豆腐を入れたりと、仕上がりにはっきりと、家ごとの差が表れていました。
町おこしを兼ねてのイベントなので「しもつかれコンテスト」は毎年大盛況なのです。
子どもからお年寄りまで、あちこちで「おいしいね~」という声が。
栃木県が誇る郷土食なんだな~と改めて感じたワンシーンでした。
学校給食にも、しもつかれ
子ども達の通っている小学校では、毎月一回地産地消の給食が出されます。
2月は“しもつかれ”が出るんですよ。
献立表を見たとき絶対無理だな~と思いましたが、まさかの完食!
しかもおかわりまでしてきたのには驚きでした。
酒粕臭さがあまりなかったらしく、子供向けの味付けにしてくれたようです。
調理員さんに感謝!
簡単なレシピ
基本的な作り方
①塩鮭の頭を二つに割って、香ばしく焼く。
②圧力鍋に塩鮭の頭、大豆(つぶして皮をむく)を入れ、鮭の骨がやわらかくなるまで
煮る。約30分くらいです。
(圧力鍋がない場合は、大鍋で半日くらいかけて煮ます。)
③大根、にんじんは皮をむいて鬼おろしでおろす。
④油揚げは薄く焦げ目がつくくらいに焼き、縦半分にして細切りにする。
⑤酒粕は小さくちぎり、熱湯に浸してやわらかくする。
⑥鍋に鮭と大豆、大根、にんじん、油揚げを入れて煮る。砂糖とみりんを少々入れて
弱火でじっくり1時くらい煮込む。
⑦味がなじんできたら酒粕を入れて煮溶かし、しょう油で味を整えさらに一時間煮込む。
一口メモ:鬼おろしとは
しもつかれを作るのに必要な道具で、鬼を寄せ付けないほど鋭いおろし器
という意味があります。
主に竹や木で出来ています。
普通のおろし金よりも目が粗いので水分が出にくく、野菜の歯ごたえを
残したままおろすことが出来ます。
↑日本産の竹を使った鬼おろしです。
職人のこだわりの逸品!
郷土料理を伝えていこう
「しもつかれ」について特徴や作り方をご紹介してきました。
正直、若い世代の方がしもつかれを作っているという声はなかなか聞こえません。
「おばあちゃんのしもつかれ好き!」なんて子供たちの声を聞くと、ふるさとの味、祖父母の味を大切に守っていかなくちゃな…なんて思います。
こうした郷土料理の味が受け継がれて行くことが、日本の食文化を伝承していくことに繋がるのではないでしょうか。